発酵の未来を拓け!トロントメトロポリタン大学×千葉大学 国際共創プログラム開催レポート
2025年5月29日から6月2日にかけて、トロント・メトロポリタン大学(TMU)と千葉大学の学生を対象としたアントレプレナーシップ教育プログラム「グローバルアントレプレナーシップエクスチェンジ」を開催しました!
本プログラムは、カナダを代表するスタートアップインキュベーター「DMZ」との連携のもと、学生たちが国際的なチームを組んで、ビジネスアイデアの創出に挑むものです。
今回のテーマは...
「どうすれば、日本酒やその製造過程で生まれる副産物を、日本の発酵文化を世界に伝えるアンバサダーへと変えることができるか?」
伝統産業が抱える「酒粕」などの副産物に新しい光をあて、世界市場で通用するビジネスアイデアを生み出すべく奮闘した、学生たちの刺激的な6日間をレポートします!
【事前研修】ビジネスの種をまく
プログラム開始前には、オンラインでの事前研修を実施。地域コーディネーターの阿部厚司氏から千葉県の発酵文化について、DMZのマーティン・クロトー先生からはビジネスアイデアを考える上で不可欠な「顧客の課題発見」や「価値提案」の手法について学び、本番への期待に胸を膨らませました。
【Day 1】五感で学ぶ!酒蔵訪問と歴史探訪
プログラム初日は、千葉県酒々井町が誇る酒蔵「飯沼本家」を訪問。日本酒の醸造方法や発酵のプロセスについて、蔵の方から直接お話を伺いました。専門用語が飛び交う中、千葉大学の学生がその場で通訳を買って出る場面も。自身の専門分野の知識を活かして科学的に説明する姿は、まさに国際共創の第一歩でした。蔵いっぱいに広がる日本酒の芳醇な香りは、学生たちにも大好評でした!
見学後には、飯沼本家様のご厚意で、酒粕を使った具沢山のお味噌汁やチーズケーキ、魚の粕漬けを試食させていただきました。「おいしい!」という感動と共に、酒粕が持つ可能性を体で感じ、アイデアを膨らませる貴重な機会となりました。
午後からは佐倉市の歴史民俗博物館へ。グループでのランチタイムでは、TMUと千葉大の学生が初めてゆっくりと顔を合わせ、自己紹介や文化交流に花を咲かせていました。その後は、展示を通して佐倉の歴史や発酵文化についてリサーチ。
夕方には大学に戻り、ビジネスアイデアの顧客像(ペルソナ)を具体化するため、活発な議論を交わしました。その後はお待ちかねのウェルカムパーティーを開催! 発酵にちなんだお菓子がお土産として用意され、学生たちはリラックスした雰囲気の中、さらに交流を楽しんでいました。
【Day 2-3】アイデアを磨け!大阪万博でリアルな声を聞く
2日目は、前日に固めたペルソナ像をもとに、顧客にインタビューするための仮説を立てる作業に没頭。そして午後、一行は決戦の地・大阪へ!
3日目の舞台は、2025年大阪・関西万博のカナダパビリオン。ツアーで最新の展示を楽しんだ後、いよいよ実践です。学生たちは作成した仮説を手に、万博を訪れた世界中の人々へ突撃インタビュー!
「本当にこのアイデアは求められているのか?」
「どんな人なら興味を持ってくれるだろう?」
机上の空論で終わらせないために、自らの足で集めた「生の声」は、何よりの学びです。インタビュー結果を受けてビジネスプランを修正し、再度インタビューへ向かう。このサイクルを繰り返すことで、アイデアはより現実的で、洗練されたものへと磨かれていきました。
【Day 4】集大成!世界へ届け、私たちのアイデア
プログラム最終日。午前中はカナダパビリオンで各グループがプレゼンテーションの最終練習に励みました。DMZのマーティン先生から熱のこもったフィードバックを受け、発表の瞬間までブラッシュアップを続けます。会場には本番直前の緊張感と熱気が満ちていました。
そして午後、ついに成果発表会がスタート。 DMZ Japanの並木由美子氏による司会進行のもと、イベントは華やかに始まりました。 イベントには一般の来場者も参加し、学生たちの挑戦の集大成を見守ります。
開会挨拶:パートナーシップへの熱い思い
イベントは、DMZのエグゼクティブディレクター兼CEOであるアブドゥラ・スノバー氏による感動的な開会の挨拶で幕を開けました。自身の日本での経験やDMZ Japan設立に至るまでの道のりを熱く語り、「DMZの価値観は『信頼』と『起業家ファースト』。千葉大学との素晴らしいパートナーシップに心から感謝しています」と、本プログラムへの深い思いを伝えました。
知の共有:起業家精神を学ぶということ
続いて、知識共有ワークショップとパネルディスカッションが行われました。
DMZのマーティン・クロトー博士は、理論だけでなく実践的な経験を重視するTMUの教育モデル「ゾーンラーニング」を紹介。ビジネスの無駄をなくす「リーンスタートアップ」の考え方が、日本の「カイゼン(改善)」や「ムダ」といった概念に由来することに触れ、参加者の知的好奇心を刺激しました。
パネルディスカッションでは、TMUと千葉大学の教員・学生が登壇。
千葉大学アントレプレナーシップセンターの片桐教授は、大学としてアントレプレナー育成に力を入れていることを紹介。TMU学生のロバート・コフーンさんは「このプログラムで『完璧よりも反復』、そして不完全さの中に価値を見出す日本の『侘び寂び』の精神が起業家精神に通じることを学んだ」と語りました。千葉大学学生の加畑翔悟さんは「社会課題を解決したいという思いからビジネスを考えることの意義を実感した」と、自身の変化を述べました。
ハイライト!学生によるビジネスアイデアピッチ
イベントのハイライトは、5つの学生チームによるピッチプレゼンテーション。日本の酒粕を活用した、個性的で革新的なビジネスアイデアが次々と発表されました。
• チーム5: LEESCHA(リーシャ)
酒粕と昆布茶を組み合わせた、プロバイオティクス豊富なノンアルコールドリンク。北米の健康志向の若者がターゲット。
• チーム1: 酒粕フェイスマスク
酒粕の美肌効果に着目した、手軽な使い捨てフェイスマスク。日本の美容や本物の成分を重視する女性に届けます。
• チーム4: Kasuna(カスナ)
柚子などで風味付けした、GABA配合の酒粕ノンアルコールソーダ。リラックスを求める現代人のためのウェルネスドリンク。
• チーム2: LeesUp Bars(リーズアップ・バーズ)
酒粕をフリーズドライ加工した高タンパク質の栄養バー。忙しい毎日を送る健康志向の人々に手軽な栄養補給を提案。
• チーム3: Nami(ナミ)
日本の温泉文化に着想を得た、酒粕ベースのウェルネスギフトボックス。自宅で日本の癒やしを体験できる特別な贈り物。
栄光の「Aha! Moment Award」は誰の手に?
すべての発表が終わり、いよいよ審査結果の発表へ。今回贈られるのは「The Aha! Moment Award」。この賞は、完成度が最も高いアイデアではなく、リサーチやインタビューといったイノベーションの旅の中で、最も洞察に富んだ発見(=アハ!モーメント)をしたチームに贈られる、非常にユニークな賞です。
栄えある受賞チームは... チーム1「酒粕フェイスマスク」 でした!
チーム1は、当初ターゲットとしていたZ世代よりも、より成熟した25歳以上の女性の方が製品への関心が高いことを発見。また、多くの人が気にするアルコール成分への配慮や、「廃棄物」ではなく「持続可能性」という言葉で価値を伝える重要性に気づきました。この顧客の真のニーズを深く探り当てた「発見」が高く評価されました。おめでとうございます!
最後に、千葉大学アントレプレナーシップセンターの片桐教授が閉会の挨拶に立ち、「皆さんの努力と創造性は本当に素晴らしかった。起業家として『毎日変化を起こすこと』を続けていってほしい」と、学生たちに力強いエールを送り、イベントは盛況のうちに幕を閉じました。
まとめ
今回のプログラムを通して、学生たちは文化や専門分野の違いを乗り越えて協力し、0から1を生み出すことの難しさと面白さを体感しました。現場に足を運び、人々のリアルな声に耳を傾けることの重要性を学んだ経験は、彼らが未来の起業家として、あるいは社会の様々な場面で活躍するための大きな糧となったことでしょう。
ご協力いただいた皆様、そして素晴らしい創造性と情熱を見せてくれた学生たちに、心から拍手を送ります!