Global Entrepreneurship Exchange トロント編- 日本の発酵文化を世界へ
カナダ政府の助成を受けて、本学の学生を対象に、国内とトロントの2つの舞台でそれぞれ継続実施している Global Entrepreneurship Exchange。テーマは「日本の発酵文化を世界に届ける」ことです。
5月末〜6月初旬に実施した国内プログラムでは、老舗酒蔵・飯沼本家を訪問し、トロントメトロポリタン大学(TMU)の学生と酒粕を活用した5つのビジネスアイデアを構想。大阪EXPOのカナダパビリオンで成果を発表しました。(国内プログラムの活動報告はこちら)
8月25日〜29日に実施したトロントプログラムでは、特に高く評価された「Leescha(コンブチャ)」と「LeesUP Bars(プロテインバー)」を軸に、TMUのマーティン・クロトー先生の指導の下、現地調査やインタビューを通じてビジネスプランを磨き上げました。
Leescha - 伝統と健康をつなぐ新しいライフスタイル飲料
「Gut Health」「サステナビリティ」「日本文化」を融合した Leescha。Leeschaチームの学生は11店舗を調査し、24名にインタビューしました。そこから見えてきたのは「無糖・低糖」「低カロリー」「Sake」への関心、そして何より「Gut Health」への注目度でした。
さらに驚くべきは、91%の人が「コンブチャを知っている」と回答したこと。日本ではまだ発展途上の市場が北米ではすでに広く浸透していることも明らかになりました。
Leeschaは、このリサーチを経て、「ノンシュガー」「高級路線」「日本文化」を柱に設計されました。容器にはエコフレンドリーな瓶を採用し、酒粕をアップサイクルすることで環境への関心が高い消費者へもアピールします。
Gut Healthを支え、環境にやさしく、そして日本の伝統を未来へつなぐ―これらを融合した製品コンセプトが、Leeschaチームから提案されました。
LeesUP Bars -- 忙しい毎日を支える高級プロテインバー
「高級」「洗練」「日本文化」を融合した LeesUP Bars。LeesUP Barsチームの学生たちはトロントでキャンパス内やショッピングモールのフードコートなどを巡り、34名にインタビュー。調査の結果、97%の人がプロテインバーを試した経験があり、70%は日常的に運動を行っていることが分かりました。
一方で利用目的の多くは「運動後」ではなく「忙しいときの食事代替」。加えて、日本文化に対して「シンプル」「ナチュラル」といった肯定的なイメージが多数で、日本らしさは大きな強みであることを認識しました。
こうしたリサーチを踏まえ、LeesUP Barsは「高級感」「洗練」「日本文化」を柱に設計。フレーバーはドリンク専門店での調査で人気だった抹茶ストロベリーを採用し、包装には和紙風デザインを取り入れることで、日本らしさを表現することとしました。
忙しい現代人のライフスタイルを支え、健康と日本文化を同時に楽しめる。そんな新しい価値が、LeesUP Barsの製品コンセプトです。
学びは「結果」だけじゃない
指導にあたったトロントメトロポリタン大学のマーティン・クロトー先生は、「学内では協力的な学生が多かったけれど、ショッピングモールなどの学外ではなかなか難しかったと思います。でも、それこそがリアルなマーケティング。調査が思うようにいかない経験も、大事な学びのひとつです。」と、結果だけでなく、試行錯誤のプロセスそのものが大切な学びだと強調しました。
学生の声 ― プログラムを振り返って
参加学生からは多様な学びの声が寄せられました。
「答えは現場にある」
社会や人々のニーズを把握し、それを解決することは『働くこと』の本質だと感じました。どれだけ科学技術が発展しても、リアルな現場でリアルな人と対話することが大切だと強く実感しました。
「アウトプットで磨かれる力」
限られた時間の中で情報を整理し、成果物として形にする経験ができました。入力と出力のサイクルが意識されていたことで、集中した学びが可能になり、起業家に必要な行動力の大切さを体感しました。
「「聞く力」と起業意欲の高まり」
現地でのアンケート調査を通じ、見知らぬ人から率直な意見を引き出す難しさと重要性を学びました。さらに、他グループのピッチコンテストを見て、その熱意ある発表が自らの起業意欲を一層高めてくれました。
FD/SD研修―ZONE Learning からの示唆
あわせて実施されたFD/SD研修では、教職員向けにトロントメトロポリタン大学の ZONE Learning の取組が紹介されました。最大の特徴は、スタートアップの成功そのものではなく「Journey(過程)」に価値を置く点です。知識伝達型を超え、実社会で必要とされるソフトスキルや起業家マインドを育む仕組みが整っています。
さらに、技術とビジネスの両面で専門家の講義や助言を受けられる、実践的な修士課程プログラム MEIE(Master of Engineering Innovation and Entrepreneurship)も紹介されました。これは ZONE Learning と連携した教育プログラムの一例です。
また、カナダ政府による Lab to Market ファンディングプログラムを活用し、研究成果の社会実装や大学文化の変革が進められていることも共有されました。
今回のFD/SD研修では、 Biomedical Zone、Innovation Boost Zone、Science Discovery Zoneの3つのインキュベーション拠点を視察する機会もありました。
どのZONEも、大学が研究をどのようにして社会的インパクトへと転換するのかフォーカスしている点が印象的でした。ZONE Learning が、大学での教育と実社会のギャップを埋める重要な取組であることを改めて実感するとともに、大学が教育・研究・産業界を結びつけるスタートアップ・エコシステムを構築することの意義を再確認することができました。
学生・教職員双方にとって、学びと気づきの多い充実したプログラムとなりました。素晴らしいプログラムを実現していただいたTMUおよびDMZの皆さまに心より感謝いたします。